横浜地方裁判所 昭和61年(ワ)1936号 判決 1988年2月29日
原告
近藤賢治
被告
大沼喜久雄
ほか一名
主文
被告らは、原告に対し、各自一八万〇六三八円及びこれに対する昭和六一年八月三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その四を原告、その余を被告らの負担とする。
この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告らは、原告に対し、各自一〇八万二四四五円及びこれに対する昭和六一年八月三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和六一年三月二〇日午前九時頃
(二) 場所 横浜市保土ケ谷区内国道一六号線梅の木交差点付近
(三) 加害車両 大型貨物自動車
右運転者 被告大沼
(四) 被害車両 二五〇CC原動機付自転車
右運転者 原告
(五) 事故態様 加害車両は、走行中速度を一定せず、早く走つたり、遅く走つたりしていた。原告はその後方を走行しており、加害車両の速度に合わせて走行していた。事故現場二〇ないし三〇メートル位手前で、加害車両は急に減速したので、原告は追突をまぬがれるため、左側路側線外に出た。ところが、加害車両は左側に進路を変更したため、被害車両は加害車両とガードレールの基礎との間に挟まれ、操作不能となり、加害車両の後輪ダブルタイヤに原告の右肩、右足が接触したまま一〇メートル程走行し、その後加害車両が右に進路を変更したため、被害車両は操作が可能となつたが、原告は、右接触時の傷害のため十分な操作ができず、車両ごと路上に転倒した。
2 責任原因
(一) 被告大沼
本件事故は、被告大沼が後方の注視義務を怠つていたこと、速度を一定せず走行したこと、急に減速したこと、進路をむやみに変更したこと、変更するに当り後方を注視し、かつ、変更の合図をしなかつたこと、及び路側線を超えて運転した過失によるもので、被告大沼は、民法第七〇九条により、本件事故によつて原告が受けた損害を賠償すべきである。
(二) 被告会社
被告会社は被告大沼の使用者で、かつ、本件事故は、被告大沼が被告会社の業務のため加害車両を運転中惹起したものであるから、被告会社は、民法第七一五条により、本件事故によつて原告が受けた損害を賠償すべきである。
3 損害
原告は、本件事故により次のとおりの損害を受けた。
(一) 医療費
原告は本件事故により受傷し、竹山病院に医療費として二万〇七四五円を支払つた。
(二) 慰藉料
原告は本件事故により受けた精神的苦痛を慰藉するには五万円が相当である。
(三) 物損
(1) 被害車修理代 三〇万円
(2) 洋服破損 九万八〇〇〇円
(3) グローブ破損 九八〇〇円
(4) セーター破損 三九〇〇円
(四) 弁護士費用
原告は、被告らが賠償請求に応じないので、原告訴訟代理人に訴訟の提起、追行を委任し、その手数料及び謝金として六〇万円を支払うことを約した。
4 よつて、原告は、被告らに対し、各自一〇八万二四四五円及びこれに対する被告らに本件訴状が送達された日の翌日である昭和六一年八月三日から右支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 1項の事実中、昭和六一年三月二〇日午前九時頃、横浜市保土ケ谷区内国道一六号線梅の木交差点付近を被告大沼が加害車両を運転走行していたことは認め、その余は知らない。
2(一) 2項(一)、(二)の事実はいずれも否認する。
(二) 加害車両が急に減速した事実及び加害車両が、進路変更はもちろん路側線外を走行した事実はない。
加害車両は、本件事故現場に至るまでの間、通常のブレーキのみを操作して走行しており、急な減速の場合に用いる排気ブレーキを使用しておらず、当時、加害車両は、一〇トンのセメントを積んでいたため、普通乗用自動車と異なつて急加速、急減速はできなかつた。また、当時、本件事故現場付近道路は渋滞しており、加害車両もそのような流れの中で前車の動静に従つて追従していただけであり、急減速する事情は存しなかつた。
加うるに、加害車両が路側線外を走行した事実も無く、渋滞の中、被告大沼は、前車の動静を注視しつつ追従しており、ことさら進路を変更したり、路側線外を走行する必要も無かつた。
(三) 被告大沼は後方確認義務を尽くしていた。
前記の事情の下で、被告大沼には後方確認義務の存在を考慮する必要は無いと考えられるが、そのような走行状況においても、被告大沼は、本件事故発生前後約七一・七メートルを約七秒間で走行する間、二度にわたり加害車両左バツクミラーで左後方を確認しており、後方確認義務の懈怠は無い。
(四) このように、いずれの点においても、被告大沼は、加害車両を運転するについて、渋滞道路における通常の走行方法を遵守していたことは明らかであり、本件事故発生に対する過失は無い。
本件事故は、かえつて、原告が加害車両の動静注視を怠つた結果、前車である加害車両の動静に気づくのに遅れたか、或いは、原告が加害車両の動静に応じて減速することなく、路側線外を走行しようとした際、加害車両に接触したため発生した事故と考えられる。
(五) 判例は、本件事故のような場合、後続車(本件においては被害車両)に厳格な車間距離の保持義務、前車の動静注視義務を課しており、本件においても原告の右義務違反は明らかである。
3 3項の事実はいずれも争う。
第三証拠
証拠の関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1項記載の日時に、同記載の場所を加害車両が走行していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、第六ないし第一二号証、第一三号証の一ないし九、第一四号証、原告、被告大沼喜久雄各本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によると、原告運転の被害車両は梅の木交差点から国道一六号線に入り、加害車両の後方を時速三五キロメートル位の速度で進行していたこと、右両車両が走行していた国道一六号線は片側一車線の道路で、車両通行帯の幅員は片側三・四メートル、路側線の外に一メートルの間隔をおいて歩道があり、歩道との間にガードパイプが設置されていたこと、加害車両は車幅が二・四九メートル、長さ九・四五メートルで、車両通行帯をほぼ占拠するかたちで進行していたこと、当時、道路は交通が渋滞していて、被告大沼は、アクセルを利用して前車の速度に合わせて加害車両の速度を調節していたが、本件事故現場の手前で急激に速度を落したこと、原告は、加害車両との車間距離を十分とらず被害車両を進行させていたため、加害車両に追突しそうになり、これを回避するため、被害車両を路側線外に出したが、減速した加害車両と併進することになつたこと、このとき加害車両の後部が路側線を超えて左側に寄つてきたため、被害車両は加害車両とガードパイプとの間に挟まれ、加害車両の後輪と原告の右肩が接触し、加害車両と被害車両はそのまま二〇メートル位進行したこと、その後加害車両の後部が右側に寄つたため、原告は被害車両を操作することが可能になつたが、バランスを失い車両ごと路上に転倒したこと、被告は、加害車両が原告に接触したことに全く気付かなかつたこと、以上の事実が認められる。
被告らは、加害車両が路側線から外に出たことはない旨主張し、被告大沼の供述中には右主張に副う部分がないではない。
しかし、前掲甲第七号証によると、被害車両のタイヤ痕が二一・七メートルに亘つてガードパイプ際に残されていたことが認められ、右事実にガードパイプと路側線の間隔が一メートルであること、被害車両に乗つていた原告の右肩が加害車両の後輪に接触したことを合わせ考えると、その位置関係から見て、加害車両の後輪は路側線から外にはみ出していたものと推認するのが相当で、被告大沼の供述中右認定に反する部分はにわかに措信できない。
二 よつて、本件事故発生につき被告らに責任があるか否かにつき検討する。
一般に自動車を運転するに当つては、運転者は進路前方、左右の安全を確認して運転すべき注意義務があるのであるが、前に認定した事実によると、本件事故現場は、車両通行帯も狭く、かつ道路が渋滞し、加害車両は不安定な進行をしていたので、被告大沼としては、自車左側方を進行するオートバイ等の存在することも予想することができたから、バツクミラー等で、自車左方の安全を確認するとともに、路側線から外にはみ出して進行することがないよう注意して運転すべき義務があつたものということができる。
しかるに、被告大沼は、右注意義務を怠り、加害車両と併進した被害車両の存在に気付かず、かつ、自車を路側線から外にはみ出させて進行した過失により本件事故を発生させたもので、民法第七〇九条により、本件事故によつて原告に生じた損害を賠償すべき責任があるものと解される。
また、被告大沼喜久雄本人尋問の結果によると、被告大沼は、被告会社にトラツクの運転手として勤務し、本件事故も、被告会社の事業として、同社所有の加害車両を運転中発生させたことが認められるから、被告会社は、被告大沼の使用者として、本件事故によつて原告に生じた損害を賠償すべき責任があるものと解される。
三 しかし、前に認定した事実によると、原告にも、加害車両の後方を被害車両を運転進行するにあたり、先行車の停止減速等の動作に応じこれに追突しない措置をとれる程度の間隔及び速度を保持して進行すべき注意義務があつたにも拘らず、右注意義務を怠つた過失があり、右事実に本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件事故により生じた損害につき、過失相殺としてその損害額の六割を控除するのが相当である。
四 よつて、本件事故による損害額について検討する。
1 医療費
原本の存在、成立に争いのない甲第二、第三号証によると、原告は本件事故により全治一週間を要する右頸部打撲傷兼擦過傷、右大腿部打撲傷の傷害を受けて訴外竹山病院で治療を受け、同病院に治療費、診断書代として少なくとも二万〇七四五円を支払つたことが認められる。
2 慰藉料
本件事故により原告が受けた傷害の程度、本件事故の内容、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、原告の受けた精神的苦痛を慰藉するには五万円が相当である。
3 物損
(一) 前掲甲第六号証、原本の存在が当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第五号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、被害車両は昭和五八年製のスズキRGガンマ二五〇で、本件事故当時の価格は二五万円であつたこと、原告は、被害車両の修理費の見積りが三〇万円以上であつたため修理しなかつたことが認められ、右事実によると、原告は、本件事故により、被害車両につき、その時価である二五万円の損害を受けたものと認められる。
(二) 原告本人尋問の結果によると、本件事故により、当時原告が着装していた洋服(つなぎ)、グローブ、セーターが破損したこと、右物件の購入価格は、上衣が九万八〇〇〇円、グローブが九八〇〇円、セーターが三九〇〇円であつたことが認められ、弁論の全趣旨によると、右物件の本件事故時の価格は各その二分の一である上衣が四万九〇〇〇円、グローブが四九〇〇円、セーターが一九五〇円と認められるから、原告は本件事故により洋服等につきその時価である合計五万五八五〇円の損害を受けたものと認められる。
五 前記四項の原告の損害の合計は三七万六五九五円であるが、右金額から過失相殺として六割を減じると、原告の損害は一五万〇六三八円となる。
また、弁論の全趣旨によると、原告が本訴の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用を負担したものと認められるところ、本件事案の内容、認容額等諸般の事情を考慮すると、右弁護士費用は三万円をもつて相当と認める。
六 以上によると、本件事故により原告が受けた損害は一八万〇六三八円と認められるから、原告の本訴請求は、被告らに対し、各自一八万〇六三八円及びこれに対する被告らに対し、本件訴状が送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年八月三日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する
(裁判官 木下重康)